デジタルでちょっと先の面白く、を考える情報マガジン『DIP

DIP Digital Innovation People

お問い合わせ

ひと

激しい環境変化を生き抜くキャリア論 計画された偶発性理論とは

IT業界のトレンドは、日進月歩を通り越し、秒進分歩とも言えるほどに激しい変化にさらされています。例えば、モノ同士が自律的にコミュニケーションを取るM2Mや、あらゆるモノがインターネットにつながるIoTは、ありとあらゆる分野で新しい付加価値を創出しています。またさまざまなIT・ロボット技術を結集させたインダストリー4.0も見逃せません。スポーツ用品大手のアディダスでは、工場は土地代・人件費が安い新興国に置くべきという常識を打ち破り、徹底的なオートメーション化を進めた工場をドイツに設置するという、文字通りの産業革命を起こしました。

この激しい変化の中を生き抜いていくために、エンジニアとしてどのようにキャリアを積み上げていけばいいのでしょうか。この問いに対し、将来像を精密に描きだし、それに向けて着実に歩みを進めるというのはナンセンスなのでは、とうすうす感じている方もいらっしゃるかも知れません。市場動向、自分の性格や強みを分析し、時間をかけて将来像を作り上げたとしても、新たなテクノロジーが環境を一変させてしまえば、また別の将来像を作り直さなければなりません。こうなるとイタチごっこで、結局自分が描いた将来像には一生たどり着けないままとなってしまいます。

一風変わったキャリア論である「計画された偶発性理論」は、キャリアに悩めるあなたのひとつの指針となるかも知れません。

子どものときに思い描いていた夢を実現できた確率は?

スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が提唱した「計画された偶発性理論 (Planned Happenstance Theory)」は、ある研究データをきっかけのひとつとして生まれた理論です。教授の調べでは、18歳の時点でなりたいと思っていた職業に就けた人は、米国の平均的な社会人のたった2%でした。自分の将来像、ありたい姿を描いたとしても、100人に2人しか実現していないのです。こうした研究データから、教授は「夢を描き、その実現に意図的にキャリアを積み重ねていく」という伝統的なキャリア論は現実に即していないと考え、偶然やその時々の変化を反映した新しいキャリア論を作り上げるにいたりました。

計画された偶発性理論とは

教授が提唱した「計画された偶発性理論」では、伝統的なキャリアの考え方を一蹴し、個人のキャリア形成は偶然に大きく左右されるものだと捉えています。なにせ本理論では「キャリア形成は、8割が予期しない出来事によって形成される」と考えているのです。8割は言いすぎなのでは、と思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、あなたがなぜ今の仕事をしているのか、少し振り返って考えてみてください。あなたが今の仕事や業種を選んだ理由は、偶然知り合った人からの紹介・情報や、たまたま配属されたプロジェクトの仕事が案外面白く感じたから、突然舞い込んだチャンスに飛びついたから、といったことはありませんか? あなたが100人中の2人でなければ、8割という数字も納得感があるのではないでしょうか。

この理論では、キャリアに対して偶然が占める役割の大きさを認めたうえで、偶然の出来事に対して悲観的になるのではなく、キャリアに偶発性を積極的に取り込んでいくことで、キャリア形成をはかることが重要だと説いています。

偶発性をキャリアに活かす5つの行動指針

キャリア形成の中で偶然が占める割合が大きいと言っても、漫然と過ごしていてはキャリア開発ができるわけではありません。では、具体的にどのように行動すれば、偶発性をキャリアに活かすことができるのでしょうか。クランボルツ教授は、以下の5つが重要だと指摘します。

  1. 好奇心:新しい学習の機会を模索し続けること
  2. 持続性:努力し続けること
  3. 楽観性:偶発性に対してポジティブに捉えること
  4. 柔軟性:状況に応じて、こだわりや信念すらも変化させていくこと
  5. 冒険心:どんな状況でもリスクを取って行動を起こしていくこと

私自身、偶発性の連続で今のキャリアにたどり着いていると考えています。
もともと新卒で入ったメーカーでは、機械設計を行う部門への配属を希望していました。しかし人事部との話し合いの結果、社内IT部へSEとして配属されました。アメリカ、シンガポール、中国メンバーの所属するグローバルITチームでの仕事はとても面白く、これからITエンジニアとしてがんばっていくぞと思っていた矢先に、勤めていた会社が競合の企業に買収されることに。これをきっかけとして転職を決意し、ITコンサルタントとしての道を歩み始めました。巨大案件を任されるなど充実した日々を送っていましたが、たまたま知り合った人がシンガポールで人事コンサルティング会社を立ち上げると聞くにつけ、「面白そう!」という理由だけで飛びつき、半年後にはシンガポールに移り住んでいました。

ITコンサル→人事コンサルへの鞍替えはそれなりに大変なこともありましたが、新しい学びがたくさんありました。その後の上海への移住も、少し前にマレーシアで知り合った人との縁で決まりました。18歳のときに考えていた「メカ系エンジニアになる」という将来像からはかけ離れた仕事をしていますが、どれも「会社の買収」「知り合った人との縁」などの思いもよらない出来事に大きく影響されてきています。そして、大きな変化がありながらも今の仕事に楽しく打ち込めているのも、5つの行動指針に従って行動してきたからではないか、と振り返って思います。

計画された偶発性理論は、変化の激しい現代において、より現実に即したキャリア論として編み出されました。5つの行動指針を胸に、自身のキャリアと偶然とに向き合ってみてはいかがでしょうか。

参考文献

著者情報

著者アイコン

宇野俊介

IT・HRコンサルタント、クロスボーダーコンサルタント。
上海・シンガポールをベースに世界を飛び回り、組織開発、人材マネジメントコンサルティング、戦略コンサルティングなどを提供しています。ITコンサルタントとしては数百億円単位の生産管理システム刷新プロジェクトにおいて、最重要モジュールの開発を指揮。カメラが趣味で、レンズの値段と銀行残高とをにらめっこするのが日課です。圧倒的な猫派。

関連記事

無料メルマガに登録して最新情報を受け取ろう