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人材の多様化をイノベーションにつなげるために必要な2つの視点

人材の多様化は、それを達成するだけでイノベーションが促進され、経営に前向きなインパクトが生まれる、魔法の杖のように語られる場面が見受けられます。それに伴い、さまざまな人が働きやすくなるよう働き方の多様化を推し進めるべき、という論調が強まっています。

もちろん人材の多様化は企業の社会的責任といった観点で考えれば間違いなく良い結果をもたらすものであり、また日本においてはこれから労働力の減少が加速しますから、多様化そのものに異議を唱える人は少数派でしょう。しかし、人材の多様化は本当にイノベーションを促進するのでしょうか。各企業において、どのような条件で、どのような多様化が効果を発揮するのか、といった議論は十分になされているでしょうか。

独立行政法人経済産業研究所の2014年の調査においては、取締役会での人材の多様化をイノベーション(調査内では研究投資額と特許件数を指標として使用)につなげるためには、単に多様な人材を取り入れるだけでは不十分で、多様な人材を活かす環境づくりや、そもそも組織の状況に合わせてどういった多様化を目指すのかという議論が必須となることが分かってきました。

人材の多様化→イノベーションの活性化、とは必ずしもならない

前述の調査によると、取締役会における人材の多様化とイノベーションの活性度合いは、企業特有の効果を分析した際にはほとんど相関性が見られないことが分かりました。つまり、人材の多様化そのものがすべての企業においてイノベーションの活性化をもたらす、ということは必ずしも言えないのです。

しかし統計処理の手法によって結果の見え方も大きく変わることから、調査内ではいくつかの仮説を立てて詳細な分析が行われていきました。その結果、人材の多様性をイノベーションにつなげるために必要な議論すべき2つの要素が見えてきました。

議論のポイント1:多様化を「活かす」環境づくり

外国株主割合が30%以上の企業サンプルにおいて、女性役員比率の割合や教育年数の多様性がイノベーションに統計的に有意なプラスの効果を与えるということが分かりました。外国株主の比率が高い外資系企業においては多様性を活かす環境が整っており、組織内のダイバーシティ度合いがイノベーションという結果につながりやすいことが原因であると考えられます。

また女性役員比率が10%以上の企業サンプルに対して分析を行ったところ、こちらは全体サンプルに対して統計的に有意な違いは観察されませんでした。ただしこれは、女性役員比率が10%という値は日本のなかでは高い比率であっても、諸外国のレベルから比べればまだまだ低く、ダイバーシティとしての効果を発揮する水準にまでいたっていないことが原因かも知れないと結論付けられています。更なる女性活躍の進展と、継続的な調査が望まれます。

社員はどのようなスキルや適性を持っているのだろうか?
タレントマネジメントを適用し人材戦略の再構築をされた IIJエンジニアリング様の事例

議論のポイント2:事業の国際化の進展度合い

国際化が進展していると思われる産業(調査では機械、電気機器、造船、自動車、輸送用機器、精密機器を選定)においても、各種ダイバーシティの指標が統計的に有意な差でイノベーションに影響を与えることが分かりました。ここから、ふたつの要因が考えられます。

ひとつは、国際化が進展している産業においては、事業継続につれてダイバーシティマネジメントの重要性が高まること。社内にダイバーシティマネジメントに関するノウハウが蓄積していったために、ダイバーシティをイノベーションにつなげる風土ができあがっていったことが考えられます。

もうひとつは、そもそも国際的な市場においては、ダイバーシティが進んでいる組織の方が有利であると考えられます。外国のいくつかの地域においては政治的リスクや社会的リスクなど変動要因が大きい市場があり、そのような先が見通しづらい市場においては均質な人材によるマネジメントよりも、多様な人材がマネジメントに参加することでリスクヘッジがしやすくなる可能性があります。

以上で見てきたように、人材の多様化によるイノベーションの活性化を実現するためには、多様化を活かす環境づくりと、そもそも多様化が求められる市場環境にあるのかどうか、という2点を十分に議論する必要があります。自社組織でどのようなタイプの人材が求められるのか、それを受け入れる土壌ができているのかを明確にしたうえで、求める多様な人材を受け入れるための働き方の設計を行うべきでしょう。

参考文献

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宇野俊介

IT・HRコンサルタント、クロスボーダーコンサルタント。
上海・シンガポールをベースに世界を飛び回り、組織開発、人材マネジメントコンサルティング、戦略コンサルティングなどを提供しています。ITコンサルタントとしては数百億円単位の生産管理システム刷新プロジェクトにおいて、最重要モジュールの開発を指揮。カメラが趣味で、レンズの値段と銀行残高とをにらめっこするのが日課です。圧倒的な猫派。

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